「耳を噛みたがる女」(増村保造監督、主演:若尾文子)、「物を高く売り付ける女」(市川崑監督、主演:山本富士子)、「恋を忘れていた女」(吉村公三郎監督、主演:京マチ子)のオムニバス映画。崑監督曰くこの作品は大映の企画で製作され、監督・主演女優ともに年功序列的なセレクトだったそうです。とにかく自分たちで存分に愉しいものを作るということがコンセプトにあったとかで、四の五の言わずに見れる、見ていただきたい作品だそうです。増村監督の作品はとにかくテンポが良く軽快。彼の初期の作風そのままって感じで見ていてあっという間。増村監督作品に欠かせない左幸子の脇役も本当に巧いです。崑監督は正直前半退屈でしたが、中盤からグググと面白さが増して後半まで見ると実に濃厚且つ秀逸な映画的作品でした。見終わって感じたのは「3本中一番良いかも」。吉村監督は相変わらず光の使い方が特長的だなと思いつつ、京マチ子との息のあった演出がやはり見もの。演技はピカ一、3人の中では一番安心して見れます。前半は蓮っ葉な京都女なんですが後半で魅せる女性らしさが実に妖艶でひきつけられます。カメラは宮川一夫さん。とにかく映画ファン、特に60年代の日本映画が大好きな方には間違いなくお薦めできる一本です。 女経 [DVD] 関連情報
以前買いそびれていた島津亜矢さんのこのCDをひょんなことから見つけ手に入れることができました。当方歌唱力抜群な島津亜矢さんのファンで歌を覚え、カラオケで歌っています。 村松梢風原作「残菊物語」より お徳 関連情報
内容は、第一話から第十二話まであって、村松氏の女性遍歴談である。大映で映画化されたが、原作のタイトルを借用しただけで関連性はない。 装丁カットは棟方志功氏である。いわゆる「キワモノ」でなく、また下ネタの艶話とも異なるエセーである。 明治・大正・昭和と、著者の懐旧談の体裁をとっているので、現在の干からびた風俗嗜好からみれば、セピア色の情味纏綿とした時の流れを感じないこともない。第五話の「ヨシワラは完全に地上から消え去った」では、著者の青春期にいれあげた、江戸の廓文化の名残である花魁買いと、しきたりの話。第七話「旅先の女に悔いを残すものではない」では、著者がロンドンの外遊で出会った非常な美人の英国娘によせる、数々の手管を経てきた著者には似合わぬプラトニックな下心。 第十話「真景累ケ淵」はいつの時代にもある話だ」にいたっては、著者の女遍歴が祟る因果応報めいた怪談仕立だが、妙に現実感がある。 ここに登場する女たちは際立った悪女でもなければ、悲劇のヒロインのような、どちらの化粧も施されていない市井の女たちである。 女経 (1958年) 関連情報
先にレビューされた方も書いているが、「浪花女(若き田中絹代最高の1本と称される幻の作品)」や「芸道一代男」に続く芸道三部作、ひいては戦前から残る貴重な映画の一つだ。それをデジタル修復という素晴らしい画質で蘇ってくれたことが何よりも嬉しい。歌舞伎を生業とする主人公を描いた本作は、役者という枠組みを通じて現在にも多くの事を語りかける。まずファーストシーン。 歌舞伎のやぐらみたいな部分をぐるりと回し、舞台は歌舞伎の演目。 一場面が終わり、演目を終えた役者たちがゾロゾロ楽屋に入り愚痴をこぼす。この見事な出だし。カメラワークが良い。溝口独特のロングショットはこの頃はもう定法。 「大根でも親の七光りでチヤホヤされんだからまいるよ」このセリフで何人の役者がギクリとしたのかな。 大根役者が親から自立し、歳月をかけて一流の役者に成長していく。 主人公の「菊之助」は大役者の親の重圧、自分に才能が無いという板挟みの苦しみ。それを支える奉公女の「お徳」。 多少ズケズケとした物言いだが、嘘を付かずハッキリ言っては思いやるその優しさ。 言わないことの「厳しさ」よりも、いっそ言い放ってくれる「優しさ」の方が欲しい。それが人間の本音だ。その辺の描き方が素晴らしい。オマケに乳母とは言えうら若き乙女・・・母乳が出る?若妻・・・うーむ菊之助ムッツリ。 風鈴の音が神秘的に鳴る夜、そんな女性が「この子におっ●いを・・・」手を出すなという方が無理ですね菊之助さん。 夜空に打ち上がる花火は「狂恋の女師匠(フィルム行方不明)」にも描かれたらしく、現存する作品では「虞美人草」で見られる。そんな夏の熱い夜、スイカを食べ一時の至福を噛み締める二人の男女。 赤ん坊に蚊帳をかける様子、スイカを斬る描写、 口止めされた子供から駄賃で情報を聞き出す絵・・・こういうさりげない描写が実に良い。 親はダメと言っても若い二人は止められない。 太鼓もドコドコそんな二人を後押しだ(後の「近松物語」は冒頭からドンドコ五月蠅いです(褒め言葉)。 物語は菊之助が軸であり、男心をじっくり描く、段々と女心も絡ませてくる。 親の心子知らず、子の心親知らず。 菊之助のセリフが“溝口”の心を代弁する。 「女性は一つじゃない。色んな女性がいればいろんな心がある。」 悪い女もいれば良い女もいる。頭は悪くても何だろうと一生懸命に生きる女だって必ずいる。 女を馬鹿にしたら今にしっぺ返しを喰らう、女を尊敬できる奴が最後まで事を成せる。 子を産み、乳をやり、だらしない男を支えてくれる存在。そんな女を蔑ろにする奴は自分をも滅ぼす。だからといって溝口はやりすぎだがな(ある種の狂気すら感じる)。そんな「菊之助」を慕う「お徳」。 深まった中で“あなた”と優しく言う。二人の距離が縮まった事を、このたった一言で印象付ける。しかし菊之助は中々芽が出ない。 5年の旅芸人生活で心が荒み始める菊之助。お徳の献身的な支えが、菊之助にかすかな良心と粘り強さを残す・・・。 年月を重ねた荒れる様子は後の「山椒大夫」でも覗かせる。 苦よりも楽、失敗を恐れて現状に甘える菊之助。そんな菊之助を、お徳は一計を案じてまで元の光の中に戻そうと努力するお徳。こんなええ女何処にもおらんがな。人間一人じゃ生きられない、人の縁が人を活かす。 後に引けなくなった菊之助の覚悟と五年間の苦労が、大舞台の上で爆発する・・・!そんな姿を見て、嬉しそうな表情と何処か哀しみを覗かせる顔をするお徳。 自分の運命を悟った上で・・・菊之助の成長を喜ぶ仲間たち、子の心を理解してくれた父親、だが菊之助の心は満たされない。目の前にいる、愛する女をおもいっきり抱きしめてやれない苦しみ。戦後に撮られた「近松物語」を見ると余計にそう感じてしまう。 動き出す列車、川を流れる船が運ぶのは菊之助の栄華か死にゆく者の魂か。 菊之助の無言の苦しみがカメラワークだけで伝わって来る。 残菊物語 デジタル修復版 [Blu-ray] 関連情報