山川作品を読んできた人には馴染み深い写真屋さんをメインに据えた物語。氏の父がカメラマンだったこともあってか、カメラは小物としても結構出てきていた。表紙で構えているのはゼンザブロニカかな。また渋いとこを突いている。短編の写真屋さんみたいに生活観のない謎キャラのまま通すのかなと思ったら、意外と庶民的で親近感が湧く。早い話が想像と違ったのだが、良い意味で想像と違った。ある意味おなじみの押しかけ女房的なヒロイン(?)も健在。なんといえばいいのか分からないけど、山川作品はどれも、読む前に「ああ、いいなあ」と思って、読んでるときも「ああ、いいなあ」と思って、読んだ後も「ああ、いいなあ」と思う。寒い日に熱いお風呂に入って、「ああ、いいなあ」と思うのに似ている。肌寒い晩秋にコーヒーを飲んでしみじみと美味いでもなんでもいいけど。しみじみと来る良さだ。そしてそれは年齢を重ねるたびに強く思う。昔好きだった漫画でも青臭く感じてしまうことは多々あるけど、山川漫画は時間の経過や大人の再読に耐えうるものだ。そりゃ流行りの絵柄でも作風でもないし、特に今作はコーヒーもう一杯やら口笛小曲集みたいな幾分キャッチーな作品と比べると表紙は明らかにとっつきにくく、雰囲気にしても従来の読者向けの部分があるとは思うけど、こういったものを描き続ける人がいることに、そして出してくれる編集者がいることに、言い知れない頼もしさを感じる。出版業界は先細りとはいうけれど、こういった作品が出なくなったらもう終わりなんだろうなと思っている。いやしくも漫画好きを自称するなら絵柄に躊躇せずに、是非読んでほしい(正直、表紙も渋すぎて一見さんは手に取らないと思う…。2巻は売り上げ次第というなら、もう少し他にあったのでは…)。なくなりそうなものを撮る物語だけど、良いものはなくならないでほしい。そして、なくならないために微力でも買い支えていきたいと思う。それにしても連載開始したのって二年前なんだ。月日が経つのは早いな。「肩書きが○○○の奴には気をつけろ」、これは本当にその通りだなと思って笑ってしまった。 写真屋カフカ (ビッグコミックススペシャル) 関連情報
凝ったカメラワークと編集に、豪華俳優による意図的な「へたウマ」演技をからませてハチャメチャに展開するスラップスティック。何回見ても飽きない。面白い! ビリィ・ザ・キッドの新しい夜明け [DVD] 関連情報
確かにコーヒーもう一杯的な短編集ではあるのだけども、より寂しさというか心細さというか、ほろ苦さが効いているように思う。昔から詩的な寂しさみたいなものは山川直人の十八番ではあったけれど、どうにも澄江堂主人から雰囲気が変わった気がしていて(震災も大きな影響を与えてるように思う)、本作を読んでみても(良くも悪くも)その寂しさに一層磨きが掛かった気がする。過去作品を読み込んだ人が分かるような違いかもしれないし、単なる思い込みかもしれないし、もしかして自分の境遇とかそういったものが影響してそう思っているだけかもしれないけど、昔の作品を読み返してもそういう気にはならないから、やはり何かが変わった、もしくは変わりつつあるのかもしれない。(当時はおぼろげにしか気付かなかったけど、澄江堂主人は作者を丸呑みしてしまうほどの危うさがあったと思う。自分は芥川自体は興味はないのだが、あれは変なところに引き込まれそうな怖さがあった。芥川と同調してしまうような…)コーヒーもう一杯と違うのは装丁からも見て取れると思う(おなじみのセキネシンイチ氏)。単純に、「コーヒー」に視点を置いたものか、「喫茶店」に視点を置いたものかの違いかもしれないけど…。初めて読む人は恐らくコーヒーもう一杯から読んだ方がより楽しめるとは思うが、従来の読者でこの作品をコーヒーもう一杯の焼き直し的な何かと思って様子見をしている方がいるとすれば、それは間違いだと言える。少なくとも自分は少しそういう目で新連載の知らせを見ていたが、例えばコーヒーもう一杯に入っている作品がこの中に入っていたらいくらか違和感を覚えるし、その逆もあると思う。そんなもの後だしじゃんけんだと言われればそれまでだけど、読んでみれば何となく分かってもらえると思う。もしかして、装丁(というのは本の印象を形付けてしまうものでもあるので)に引っ張られているのかもしれないが…。自分は別にこんなことを考えながら読んでるわけではないし、少し感じた引っ掛かりみたいなものを言葉にしているだけなので、もし山川さんがこのレビューを読んだら、そんなことないよとか思われたり、大げさだと笑われるかもしれない。あと内容とは関係ないけどカフカにしても、やっぱり200ページ超はないと少し寂しいな。贅沢は言えないけど、あの厚みに安心感を覚える。本棚に並べたときもしっくりくるし、読んでいても手に心地良い。いや、出てくれるだけでありがたいんです、本当に…。 一杯の珈琲から シリーズ小さな喫茶店 (ビームコミックス) 関連情報
韓国製作の本編の「リメンバー・ミー」のパロディ版だと思えば楽しめる。ただ、時代設定となっている1979年は、韓国では時代の大きな変わり目であったのに対し、日本はさほどのこともなかった年なので、時代設定まで韓国版をコピーしたのでは、日本の映画に深みが出せないのも無理はないだろう。なぜ1979年なのかが明確にできないので、主人公の心の動きや切なさなども時代背景の後ろ盾がないので丁寧に描けぬまま、超常現象としての未来/過去との交信だけが浮いてしまった感じで、違和感が残った。ちょうどハムを趣味とし、また1979年に大学生だった私に「懐かしさ」と、なにか青春時代にし残してきた「切なさ」を感じさせるにはちょっともの足らなかったかな。 時の香り~リメンバー・ミー~ [VHS] 関連情報
ヘンな味の映画を撮る山川直人が、ヘンな味の村上春樹の短編小説を映画化。こういうものまでDVDになるなんてなあ、スゴイね。室井滋が若いしカワイイ、趙方豪もいいカンジ。(惜しい人を亡くしました)もっと長く見ていたいと感じさせる素敵な短編映画です。 100%の女の子 / パン屋襲撃 [DVD] 関連情報