小川国夫の処女短編集(と言って良いと思う)。明らかに聖書から題材をとった一群の小説と、自らの体験に根ざした私小説群とから成り立っている。小川国夫の私小説は、著者自身が自分の周囲に固執して書いており、それがかえって世界の普遍を書く描くことになっている。小川国夫の小説は難解と言われているが、この短編集におさめられている小説は、難解ではない。 アポロンの島 (講談社文芸文庫) 関連情報
小川国夫という不思議な作家がどのように文学に取り組み、特異な小説群を生んできたきたのかは、彼自身の著作でかなり明らかにされています。しかし、この小川の同伴者、妻による小川国夫へのレクイエムは、その文学的な営為がどのような苦悩のうえになされたのかを、違った角度から照らし出しています。やや硬質な文章が、小川国夫とこの著者との関係を表しているように思えます。しかし、私にとって衝撃的であったのは、小川とその母との間柄、それにまた妻として著者がどのように関わってきたかの生々しい描写です。小川国夫の原点のひとつをかいまみる思いがしました。小川と著者との他のものを許さない密な結びつきと外面的な距離(坂ですれ違う国夫が著者を無視する!)との先鋭な対立も記憶に深く残ります。80歳になんなんとする著者の何とみずみずしい文章でしょうか。3.11後に小川国夫はまた新しい側面を見せてくれる予感がします。 銀色の月――小川国夫との日々 関連情報